英語が得意ならスペイン語はすぐに身につくか
「1つの外国語をマスターしたら、3つ目以降の言語を習得するのは簡単になる」という説があリます。
この説はきっと正しいと思いますが、実際どのくらい簡単になるのでしょうか。そして、なぜ簡単になるのでしょうか。
このトピックについて、自分の観点から独自に考察してみたいと思います。
最新の研究や定説には則しておらず、あくまで自分の考えと経験をもとに書きます。
自分の英語レベル
先に自分の英語レベルについて話しておきます。
端的にいうと、普通にネイティブと日常会話・ビジネス会話をする際に全く困らないレベルです。
- 友達と英語を話す際、相手の言っていることは大体わかりますし、自分の言いたいことは全部説明できます。
- ビジネスで相手会社と話すときも、きちんと会話ができますし、専門的な会話から、議論、交渉まで大体問題なくできます。
- 英語の論文も辞書なくてもある程度読めます。
- 小説やニュースの英語はちょっと苦手です。
一方で、自分は12〜14歳の頃アメリカに住んでいたことがある、いわゆる帰国子女です。帰国後に日本の中学校・高校で英語授業を通して日本的な英語教育もしっかり受けていますし、日本にいながら英語を学ぶ感覚は結構わかるつもりですが、それでもちょっとアドバンテージを持った状態で英語に関わってきています。
ただあまりに日常生活で英語を使わないと流石にスキルが錆びれるので、社会人になった後も外国人の友達と英語で話したり、仕事でなるべく英語を使う場に出たりして、スキルを磨いていたりします。
そんな感じで、自分で言うのもなんですが、英語レベルは日本人の平均からすると割と高い方かと思います。その状態で、ここ最近スペイン語と中国語を勉強しています。特にスペイン語に力を入れている状態です。
そんな自分ですが、果たしてスペイン語を簡単に習得できているのか、英語のスキルは役に立っているのか、考察してみます。
【先に結論】英語が得意でも爆速でスペイン語が身につく感じはしない
端的に言うと、自分としてはそこまで「英語わかっているおかげで、爆速でスペイン語身につくぜ!」と言うほどの万能感はありません。
ありきたりな答えになるかもしれませんが、「英語が分かっていて、助かる部分」と「結局助かっていない部分」が両方あります。
具体的にどのようなところが助かる部分、助からない部分かを整理してみたく思います。
英語が得意だと、スペイン語を学ぶのに役に立つこと
「外国語」とは何なのか、どう母国語と異なるかの感覚がある
初めて何らかの外国語を学ぶ際には、まず「外国語」とは何なのかを感覚的に理解するところから始まります。
全く他の言語に触れたことがなく、外国語が何かわからない場合、自分の母国語と外国語が一対一で必ず紐づくと思ってしまうケースがあります。
例えば、日本語の「どうも」「ごちそうさま」「なんでやねん」なんていう言葉は、英語には存在しません。逆に英語の「What’s up?」「Oh my god」「Make sense」などは、無理やり日本語に意訳できなくはないですが、すっきりと訳せません。
日本人で見受けられる(特に日本の悪しき英語教育を経た結果見受けられる)失敗しがちな英語習得上の問題は、「きちんと理解したことを自分の言葉で(日本語で)説明できないと理解したとは言えない」と思い込んでいることではないかと思います。
この習得方法は一見理にかなっているようで、非常に外国語学習とマッチせず、逆に混乱を招きます。(本当に日本の英語教育はどうにかした方が良い)
この学習の延長線上にあるのは、「英語と日本語を変換する技術を育てる」能力の特化であり、「英語話者になる」のとは別の能力になります。頭の中で毎回「理解」するために日本語に直すので、リアルタイムな英語のコミュニケーションをすることができません。ものすごく才能があり、極められるのであれば、同時通訳者のようになれるのかもしれませんが、限界があります。このスタイルで英語を話せる人を自分は知りません。
むしろ、外国語をうまく習得するには、外国語の単語やフレーズをそのまま受け取り、外国語を理解する脳みその領域を新たに頭の中に構築することが大事です。
例えば日本語で「りんご」という言葉を聞いた時に、頭の中に実際のりんごを思い浮かべられるように、英語で「apple」ないしはスペイン語で「manzana」と聞いた時、実際のりんごを思い浮かべられるようにする必要があります。
母国語ではない言語からそのまま理解する、理解するための脳の領域を確保するような感覚はおそらく高度な言語運用のためには必須であり、また感覚を掴むのには経験値が必要なものだと思っています。これが英語などの1つ目の外国語習得で手に入っているのであれば、それは大きいアドバンテージです。
自分の場合、「英語と日本語は理解の仕方が違う」「英語と日本語は別のものとして頭の中に整理しなくちゃいけない」という感覚があるので、スペイン語を覚える時も「新しくスペイン語の領域を頭の中に作ろう」という感覚で学習を進められており、効率よく言語習得が進んでいる気がします。
頭の中の言語の切り替えの「スイッチ」の感覚がある
先の「外国語とは何なのか」というのに続く話ですが、頭の中に「外国語のための脳の領域」を作ることができた後、話す言語を切り替える「スイッチ」をどう運用するかというところが大事になります。
例えば、日本語話者でありつつ、流暢に別の言語を話せる人は、会話中頭の中でいちいち話すことを日本語に変換して理解するのではなく、完全に「外国語で相手の言葉を理解しながら外国語で話す内容を生成して発する」ことができています。
こんなことがなぜ、どうしてできるようになるのか、というのは非常に説明がしにくいのですが、気分的には人格を切り替えているような感じに近いです。
言語は文化とセットですし、発音も違うので、各言語を話しているときはまるで別人のようになることが多いです。英語で話すときはアメリカ人や手振り話ぶりになりますし、スペイン語で話すときはスペイン人特有の滑らかにノリノリで話すような感じになります。
厳密には話す言語、態度が変わりつつも、記憶は共有しているので、人格を切り替える・・・とまで言っていいのかはよくわかりませんが、何にせよ頭の中のスイッチを切り替えている感じになりがちだと思います。
この人格を作るときに良いのが、モノマネです。自分は最近スペイン人の友達であったり、kainihonチャンネルのkaiさんを真似して、自分の中にインストールしようと頑張っています。
大体今どのくらいの習熟度なのかを感覚的に把握できる
言語学習をする時の最大の課題は、モチベーションの維持です。そしてモチベーションに大きく関わるのが、今の自分の「現在地」すなわち習熟度の把握です。
言語は何かしらの教科書で「何ページまでやったからこのくらいの能力がついている」というほどわかり易くもないものです。テキストブックで何ページ読んだかと、能力はあまり比例しない気がします。
そもそも単語を何個覚えても、ちゃんと使える形で覚えてないとすぐに忘れますし、運用できません。そして単語というより、単語をルールに合わせて結びつけて運用する、しかもそれを反射的にできるかというスポーツのようなものなので、定量化が難しい分野です。
定量化は難しいのですが、割と定性的な切り口で「なんとなく」現在地を把握できることがあります。例えば、「今自分はこのくらい自分の言いたいことを外国語で話せるな」とか、「もう少しこういう表現を覚えたら日常会話が成り立ちそうだ」という主観的にみた時の実用性がどうか、という観点で自分自身のレベルを測れる気がします。
完全に私主観のケースで語りますが、下記のようなイメージです。
- 私自身は英語が得意であっても、日本語ネイティブである以上日本語が得意。
- 英語は日本語の表現力の80%くらいにしか達していない印象。それでも実用上特に問題はない。
- 3言語目のスペイン語を、どこまで習熟させたいか?といえば、英語と同等くらいまで行ければ御の字。そこまで行けば「スペイン語を話せる」と言い切れる自信がある。
- その感覚からして、今「日本語でどこまで表現できる」「英語でどこまで表現できる」という「物差し」をもとに、今「スペイン語でどのくらい言いたいことを表現できるか」というのが大体わかる、という感じ。
もちろん上記完全なる主観ではありますが、英語をある程度のレベルまで習得していると、スペイン語でも「今このくらい自分の言いたいことができているな」「今自分には足りないのはこれだな」というのが、ある程度は感覚で掴めると思っています。自分だけではないはず。
日本語よりは英語の方がスペイン語に似ている
言葉にすると当たり前すぎて恥ずかしいですが、日本語よりも英語の方が、スペイン語に近いです。
当然ながらヨーロッパ圏で英語もスペイン語も生まれていますし、似たような単語や言い回し、文法であることが多いです。
その観点からして、日本語教材でスペイン語を学ぶよりも、英語教材でスペイン語を学ぶ方がだいぶ効率的です。
日本語はやはり特殊なのだなと痛感します。日本語が何語と近いかなどの話はこちらの記事をどうぞ
良い意味で「いい加減」に取り組める
先に書いたことと一部重複しますが、外国語を学ぶときに大事なことの1つは、完璧主義になりすぎないことだと思います。
下記にリストしたような感覚で外国語に臨める、「いい加減さ」が大事です。
- 完璧に外国語を日本語に訳せなくてもいい、と割り切れること。
- 外国語の常識を、そのまま感覚的に理解した気分になれること。
- 多少文法が違っていても気にせず会話できること。
- 相手が話していることの一字一句を理解しようとせず、概要として大意を理解できればまずは良いと思えること(日本語でも対して一字一句理解しておらず、大枠を捉えて理解していることが多い)
- 単語や活用形が大量にあるものをまずは覚えてから、会話を試みたりコンテンツに触れようとするのではなく、中途半端な知識のまま会話に取り組んだり、興味のあるコンテンツにアタックする冒険心(モチベーション維持にとても重要)
英語が得意でも、スペイン語を学ぶのに役に立たないこと
なんだかんだで英語とスペイン語は沢山異なる点がある
同じヨーロッパの言語とはいえ、英語とスペイン語は多くの相違点を持ちます。実際に学んでみるとわかりますが、結構違います。
そもそも語派の観点からしても、英語とスペイン語は違う語派に属しています。語派が近いと文法とかも似てきます。私も詳細はわからないですが、よく噂で「イタリア人やスペイン人は英語が苦手」というのを聞いたりしますし、「オランダ人やドイツ人は英語が得意」というのを聞きます。オランダ語があまりメジャーではないのでオランダ人は非常に英語が得意、という説はありますが、語派の影響もある気がします。
- ゲルマン語派
- 英語、ドイツ語、オランダ語、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語、アイスランド語など
- ロマンス語派
- スペイン語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語、ルーマニア語など
また、単語でみても、日本人から見たら「え、そのくらいヨーロッパ内で同じにしてくれてもいいのに」と思う単語が割と英語とスペイン語で全然違ったりします。日本人の自分としては、ナイフ、フォーク、スプーンくらい同じにしてくれよと思うのですが、違うんですよね・・・。
日本語 | 英語 | スペイン語 |
フォーク | Fork | Tenedor(テネドール) |
スプーン | Spoon | Cuchara(クチャーラ) |
ドア | Door | Puerta(プエルタ) |
Tシャツ | T-Shirt | Camiseta(カミセタ) |
そして、やはり文法がかなり違います。
- 英語には男性名詞や女性名詞はないですが、スペイン語にはあります。男性名詞から女性名詞かの違いによって、動詞や形容詞も変化します。
- 言葉の順序が異なります。英語でHe is not a studentが、スペイン語だとEl no es un estudiante.になります。not と noが同じ意味、isとesが同じ意味ですが、英語とスペイン語で逆です。こういうのが度々あります。スペイン語だとElなどの主語を省略できます。
- 反射動詞や再帰表現というのがあり、これが英語に慣れているとわかりづらいです。例えばI wash my handsと英語で書くときは、私が手を洗う、というわかりやすい書き方になります。けれどスペイン語の場合は、Me lavo las manosと書きますが、Me lavoは無理やり直訳すると「私自身を洗う」になるので、「手に対して私自身を洗う」みたいなことになり、直感的な理解が難しいです。主語と目的語の対象が一致しているとこういうのが起きるらしいですが、まだ感覚が掴めておらず、苦戦しています。
- そしてなんと言っても活用形の量がすごいです。
- そもそも代名詞が10種類あり、その代名詞ごとに活用が変わります。
- 現在形、点過去形、線過去形、命令形、未来形、過去未来形、接続法現在形、接続法過去形、現在分詞、過去分詞など活用形があり、もちろん代名詞ごとに変化。そして不規則動詞もある。無理ゲーに思えてくる。
こういう感じなので、英語と近いとはいえど、やはり異なる言語なので、覚えることは沢山あります。結局はある程度きちんと知識を吸収できるようなノウハウと、忍耐力、時間の消費というのが必要です。
発音も違う、英語っぽく発音すると全然ダメ
スペイン語は、英語よりも日本語に発音が近いと言われます。
初期に自分は、英語を生半可に学んだ後であったので、アルファベットで書いてあるスペイン語を英語っぽく読んでみてしまうことが多くありました。そしてスペイン人の友達に「何言ってるかわからない」と言われ、いわゆる日本語英語ライクで読んだ方がマシだと言われました。
とはいえ、馬鹿正直に日本語ライクにスペイン語を読み上げるスタイルでは、流暢なスペイン語っぽくなくて格好良くありません。
やはり日本語でも英語でもない、スペイン語特有のリズムや発音があるので、練習して身につけることが大事です。
ただし、英語の経験が役に立たないことは、マイナスの面ばかりではないです。外国語の発音を格好よくできるようにするというのは、私自身は外国語学習の醍醐味だと思っています。個人的には一番重要で力を入れたい部分かもしれません。
感覚としてはカラオケに近いです。音程外して歌うこともできるにはできますが、やはり完璧に歌い上げた方が格好いいですよね。理想の話し方をする人を見つけ、その人を真似て、格好いい発音を身につけましょう。
自分は新しい言語を学ぶとき、新しい曲を歌えるように練習するような気持ちで楽しいです。正直カラオケはあまり得意ではないので、実際カラオケよりも楽しいです。ぜひ格好いい発音をしている自分をイメージしながら、興奮しながらやりましょう。
まとめ
トータルで見ると、やはり英語を学んでおいた結果、スペイン語の習得に大きく役立っていることは多い印象。でも、やはり新しい言語という以上、覚えることは沢山ある、という結果でした。
英語とスペイン語を比較すると今回は上記のような結果でしたが、さらに日本語と英語がわかる状態で中国語を勉強してどうか、日本語と英語とスペイン語を覚えた上でロマンス語派を学ぶとどうか、というところまでいつか考察できたらなと思います。